月下を雁が鳴き渡るという情趣を求めて、秋の野へ出かけてみましょうか。
「飛雁透し灯り二重花入」は壺の稜線のシャープなラインを山に見立て、雁が並んで飛んで行く様を表現しています。中を二重にすることで花が活けられ、底もあえて開けていますので、お香や灯りを入れることができます。萩、尾花、葛、水引、虎の尾、黄色コスモス、ノコンギク…さまざま摘んできて広げてみましたが、備前の壺の透かし文の雁を眺めるうちに、その窯変の景色だけで十全な気がしてきました。月光を浴びた花野を啼きわたる雁の声が聞こえてきませんか…
今月の俳句
かりがねの声の月下を重ならず 大野林火
カリガネはカモ科の渡り鳥で、秋口に北方からやって来て、湖や湿原、干潟、たんぼなど開けた場所に群れで生活します。Vの字や棹など整然と隊列を組んで飛来し、春まで越冬するとされていますが、残念ながら今では北陸や東北地方の一部でしか見かけなくなったようです。
「雁」と書いて「がん」、「かり」、「かりがね」。その鳴き声の美しさは、春のウグイス、夏のホトトギスとともに、古来より歌に詠まれてきました。ウグイスはお馴染みのホーホケキョ、ホトトギスはテッペンカケタカ!それでは雁の声は?ガーン・ガーンまたはクワッカカッ・クワッカカッと鳴くのだそうです。
名月
今宵は中秋の名月、ススキを活け、地物野菜の小松菜をたっぷりとお供えしてみました。大ぶりの備前の台付向付は、盤として水を張ったり、菓子器として小さな月見団子を盛り込んでみたり、重宝この上ない器です。手付花入れは全体のフォルムを反らすことによってお庭の曲がった花が花入れと一体になったバランスで活けられるようにデザインし、何度も手をかけて形作ったものとか。ぜひこのユニークなフォルムを活かして楽しんでくださいとメモが添えてありました。備前の花入は水が腐りにくく花入の中で根が出てくるほどというのも嬉しいですね。
歳時記でこんな句を見つけました。
秋声に聞き入るさまの伎芸天 石原八束
伎芸の守護神として信仰を集めてきた奈良秋篠寺の天女の優美な佇まいが目に浮かびます。天平の昔から、悩み多い芸術家たちに創作の源泉を与えてきたミューズとも称えられる温雅な微笑み。毎年十月十五日に行われる法要には伎芸の上達を願う人々が全国から詣でます。旅心を誘われますね。
旅ごころ
秋の色
旅を終えて帰路につくと、夕焼けの空には雁が列をなしています。月に見立てた香川漆器の丸い形の小物入れには、郷愁を誘うような漆絵の世界が広がっています。「秋空」には暮れなずむ夕焼けに向かって隊列を組んで飛翔する雁の群れが丁寧な遠近法で描かれています。「かりがねの」は大型の渡り鳥である雁が羽を広げ飛び立つ瞬間を白漆で大きく描き、躍動感を強調。背景の夜空は上塗りを黒とグレーのぼかしで仕上げました。
かりがねの声と羽ばたきが聞こえてきそうですね。
構成/和くらし・くらぶ
文/佐々木 千雅子(和くらし・くらぶ)
書、画/伊藤 千恵子(和くらし・くらぶ)
写真/山下 三千夫(マルミミ)
No.1 野村直子
コロナ騒ぎから 奈良町 行ってないな…
そろそろ 半紙も 無くなってきたし
筆先も ボロボロに…
一度 思い切って 買い換えなきゃ
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